スピードマスターがムーンウォッチと呼ばれるまでの経緯
みなさん、こんにちは。leonです。前回は月に行った唯一の腕時計、オメガスピードマスターについて、ご紹介させてもらいました。
アポロ計画の一旦を担ったスピードマスターは実は宇宙空間で使う事を想定・設計された腕時計ではありません。今回は、そんなオメガ・スピードマスターの歴史について紹介していきます。
スピードマスターは開発当初はモーターリゼーション時代を考慮したスポーツクロノグラフでした。 当時のキャッチコピーは『For Man Who Reckon Time in Seconds: The Omega Speedmaster! 』(時間を秒単位で計測する人へオメガ スピードマスターを!)
そんなモータスポーツを意識して開発されたスピードマスターが1969年、NASAの公式時計として宇宙飛行士と共に月面へ到達しました。この瞬間から『Moon Watch』の伝説は始まる訳ですが、スピードマスターは、どんな経緯で宇宙に行く事になったのでしょうか?
スピードマスターに搭載されたムーヴメント 名機 Cal.321とは
[画像出典元]Omega-Cal.-321-Chronograph-movement
スピードマスターを高精度クロノグラフにたらしめたもの。それは時を正確に刻み続けるムーヴメント無くては実現しませんでした。オメガが初代スピードマスターに搭載されたムーヴメント「Cal.321」を開発したのは1942年のこと。
クロノグラフの名門であるレマニア社の時計技師アルバート・ピゲにより設計されました。 オメガはムーヴメント設計に際し30分と12時間の積算時計があり、出来るだけ小さいものを条件にしていたそうです。
当時はクロノグラフ機能の付いた複雑なムーヴメントは懐中時計のような大きなものが主流だったらしいので腕時計に使えるクロノ用ムーヴメントを制作するのは困難だったと思います。 ですが、ピゲが実際に制作した「Cal.321」は直径27mm・厚さ6.7mmという小さなもので腕時計のムーヴメントとして何ら問題の無いモノでした。
後に機械式時計のムーヴメントとして傑作と言われる「Cal.321」はスピードマスターに搭載されオメガ初の3インダイヤル「スモールセコンド(秒針)と30分・12時間の積算計」を装備したクロノグラフとなりました。
1957年 SPEED MASTER 1st(Ref. CK 2915)
『特徴』
- ケース直径39mm
- ステンレス製シルバータキメータ(刻印)
- 針アローハンド(ビックアロー)
- プッシャー経 4mm
- professionalのロゴなし
- ムーヴメント『Cal.321』
1957年、このムーヴメントを頑強なステンレスケースで包み込んだクロノグラフ 『スピードマスター』が誕生しました。
初代モデルは以降のモデルより小ぶりな39mmケースを使用。 ムーヴメントを守る裏蓋の更に内側にはダストカバーも設けられ防塵対策も行われている。
ストップウォッチ、リセットスイッチのプッシャー経は4ミリ。ベルトの取り付け幅は19ミリとなっています。 [画像出典元] Understanding The Entire Lineage Of The Omega Speedmaster
現代の時計を知っている人にとっては珍しくも無いベゼルに刻まれたタキメーター。実は、このファーストモデルで初めて採用されたとされています。
それ以前の腕時計のタキメーターは文字盤に記載されており、その点でも画期的なモデルだといえます。
ファーストモデルはシルバーベゼルとアローハンド(時針は通称ビックアローと呼ばれている)を採用していますが、次機種からはデザインが変更されます。逆に以後のモデルで採用されなかったことでファーストモデルの最大の特徴となっていると思います。
販売期間は1957〜1959年の2年間で、その間にリファレンスナンバー「CK2915-1」と「CK2915-2」の2タイプが生産されていたという説があります。 現存する写真ではベゼルにタキメーターが刻印されていますが、もう一方のモデルでは刻印の無いフラットデザインが採用されていたらしい。
スピードマスターには2人の兄弟がいる? 『マスターシリーズ3部作』
スピードマスターには類似点の多い2人の兄弟がいます。それは同年代に発表された『レイルマスター』と『シーマスター300』です。
これらは『マスターシリーズ3部作』と呼ばれ、驚くことに今日になっても製造販売され続けています。 ただしレイルマスターに至っては人気が無いようで期間限定的な感じで細々と販売されているようですが…
この3作はケースのデザイン・視認性を重視したブラック文字盤・蓄光塗料入りブロードアロー(矢印型指針)・メタルブレスレット・シーホースが刻印された裏蓋等の類似点があります。
1959年 SPEED MASTER 2ed(CK 2998)
[画像出典元] Understanding The Entire Lineage Of The Omega Speedmaster
『特徴』
- ケース直径40mm
- アルミニウムのブラックベゼルへ変更(プリント)
- 針をアルファハンドへ変更
- プッシャー経 4.4mm
- 防水性を高める為にプッシュボタン内部にOリングを追加
- professionalのロゴなし
- ムーヴメント『Cal.321』
ファーストモデルのシンボルであったアローハンド(矢印型針)は視認性が悪いとしてアルファーハンド(ギリシャ語のアルファベットの1番を意味する?)へ変更されています。
実物を見たことが無いleonにとっては、この変更によって視認性が高まったのかは疑問です。鏡面針は光で反射しない角度では同様に見にくいイメージがあるので形を変更したところで視認性に変わりは無いと思うのですが…
ムーヴメントは同様ながらケース直径が40ミリへ変更され大径化しています。マットなシルバーベゼル(スチール製)もブラックへ変更(アルミ製)。それに伴いタキメータの表示も刻印からプリントへ。
セカンドモデルとされるリファレンスナンバーCK2998は1〜6のサブナンバーがある。詳細は不明ですが、ぱっと見て認識できるのは1〜4までは上の画像のようにクロノグラフ針(通常の時計で言うところの秒針)がストレートになっている。
5の内容は現在の資料では残っていない為、不明で最終型の6はクロノグラフ針の先がひし形になり蓄光塗料が塗られている。ちなみに、これ以降のモデルのクロノグラフ針はこのデザインに統一されています。(一部モデルは除く)
『ムーンウォッチへの動き』
2edモデルが生産販売されていた1961年頃アメリカのNASAはジェミニ計画に使用する為の公式時計の選定を始めていました。 テキサスの時計店『コリンガンズ』にて数社のクロノグラフを購入し宇宙飛行士の腕に嵌め使用テストも開始されます。 そのクロノグラフの中の一つにスピードマスターはありました。
1963年 SPEED MASTER 3rd(ST 105.003)
T[画像出典元]Omega-Cal.-321-Chronograph-movement
『特徴』
- ケース直径40mm
- 針が白塗装バトン
- ベゼル直径38.6mmから39.7mmへ変更
- プッシャー経 4.4mm
- professionalのロゴなし
- ムーヴメント『Cal.321』
基本的にはセカンドモデルとは変わりませんが針が反射針のアルファーハンドから蓄光塗料(トリチウム)を塗ったホワイトストレート針へ変更されました。このモデル以降、現代に至るまでこのデザインは変わらず継続されています。それ以外はセカンドモデルと、ほぼ変わらない仕様となっています。
『ムーンウォッチへの動き』
1964年 NASAより一通の見積書がオメガへ送られました。 見積書には『依頼の高精度クロノグラフ 12個 バンドなし』と書かれていたそうです。 見積書には金額の記入はされてなく、購入目的は『テストによる評価』と記されていました。 これに対してオメガ社は12個のスピードマスターを1個 82ドル50セントで販売すると回答した。
1965年までテストは繰り返されたようですが、最終まで残ったのはオメガを含めてロンジン・ロレックスの3社のみ。 最終テストでは他の2社は脱落し、生き残ったのはスピードマスターだけで、この年にNASAより正式採用されます。
1963年 SPEEDMASTER 4th(ST 105.012)
[画像出典元] Understanding The Entire Lineage Of The Omega Speedmaster
『特徴』
- ケースが42mmへ拡大(リューズガード採用)
- プッシャー経 5mm
- 文字盤へ『PROFESSIONAL』表記(1966年以降)
- ムーヴメント『Cal.321』
1966年からサードモデルと併売された珍しいモデルで違いは42ミリに大型化したケースにあります。大型化した理由として右側面にあるプッシャとリューズを守るために設けられたリューズガードが付き左右非対称となりました。
ケースが大型化した為かプッシャー経も4.4ミリから5ミリへ変更されています。
『ムーンウォッチへの動き』
NASAは選定から4年もの歳月をかけてじっくりテストを繰り返し1965年にスピードマスターを正式採用。翌年1966年7月にはNASAより正式な発注を受けるようになります。 以後宇宙飛行士へ顕彰を込めて文字盤へ『PROFESSIONAL』表記されるようになります。
1968年 SPEEDMASTER 5th (Ref. 145.022)
[画像出典]ALPHA OMEGA
1968年に初代から使われ続けたムーヴメント『Cal.321』が新しく『Cal.861』へ変更されることになります。
[画像出典元]STYLES『流儀』
大きな変更点としては振動数を毎時18000回転から21600回転へあげることで精度を高めることができたこと。また『Cal.321』ではクロノグラフの制御を『コラムホイール』で行っていましたが『Cal.861』から『カム式』で行うことでシンプル化が図られている。
機械をシンプルにすることで生産性と高めることができるばかりではなく、メンテナンスも楽になる為、コストの削減という面からみても優良なムーヴメントといえるでしょう。
手巻き式腕時計であるスピードマスター採用後はクロノグラフ用 自動巻きムーヴメント『1040系』にも多数の部品が流用されていることから『Cal.861』は次世代へ繋ぐムーヴメントとして設計されたことがうかがえます。
『特徴』
- オメガのロゴ プリントへ変更
- ムーヴメントをCal.861へ変更
- Cal.861 振動数 毎時 2万1600回転
『ムーンウォッチへの動き』
1969年人類初の月面着陸に同行し『Moon Watch』の称号と共に歴史に刻まれることになる。 ※この時のムーヴメントは新型のCal.861ではなく信頼性のあるCal.321だとされています。となると3rdモデルか4thモデルのどちらかが濃厚になりますね。 1970年以降にはNASA公式時計を狙うライバル社が採用を求め改めてテストが実施されましたが、やはりテストをパスできたのはスピードマスターはだけでした。
1997年 SPEED MASTER FIRST REPLICA (Ref. 3594-50)
1997年にはスピードマスター生誕40周年を記念した初代モデルの『スピードマスター レプリカ』が発売されました。 ※この頃からムーヴメントはCal.1861に変更され今も健在です。 また。近年では自動巻きモデルの登場や、フレデリック•ピゲがΩ専用に開発した自動巻ムーヴメント『Cal.3303』を搭載したブロードアローが誕生したり現在ではコーアクシャルタイプのものまで幅広く展開されています。
心にくい演出!? プラスチック風防の中心には『Ω』の刻印
ちなみにみなさんはスピードマスタープロフェッショナルのプラスチック風防に裏側からΩの刻印が刻まれているのはご存知でしょうか?
私は購入後、しばらくは気が付きませんでした。 Ωさん心憎い演出ですね。
ですが、このΩ刻印は現在ではオメガ スピードマスタープロフェッショナルだけで、しかもプラスチック風防が取り付けられたモデルのみにしか付いていません。
この刻印はもしかしたら昔のオメガの開発に携わった職人達の「細部まで手を抜かないぞ!」という心意気がつまってかもしれませんね。
歴代のスピードマスターが大集合している生唾ものの動画
これは「Hodinkee」で初代スピードマスターから近代モデルまでを扱った本当に貴重な動画です。
不鮮明な画像でしか見たことのなかった歴代のスピマス達を鮮明な動画で観れるとは思いませんでした。
スピードマスターについてざっと説明してきましたが、いかがだったでしょうか?この記事を読んでスピードマスターに興味を持って頂けたのなら幸いです。
もし興味がある方は是非、お店で実物を見てみてはどうでしょうか。
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